装丁解剖・6冊目『ともだちがやって来た。』

著者:糸井重里 発行所:東京糸井重里事務所 装丁:清水肇

◎造本 112×184mm(B6変形)フランス装
◎カバー
用紙:TS-1 N-9 四六判Y目130kg
インク:プロセス4C
加工:マット銀箔+空押し出し+グロスニス
◎表紙
用紙: GAスピリット 四六判Y目135kg
インク:DIC 2180+プロセスK
(追加指示)カバーの空色に合わせて可能な限り調整。
◎見返し(印刷あり)
用紙: TS-1 N-9 四六判Y目70kg
インク:プロセス4C
◎別丁扉
用紙:キャピタルラップ 四六判Y目60kg
インク: DIC 2180+プロセスK
◎栞
栞:1(伊藤信男商店)
◎本文
用紙:OKいしかり B判T目 60kg
インク:プロセス1C+4C
加工:四方小口印刷(DIC2180)
◎P141本文差し込み
用紙:キャピタルラップ 四六判Y目60kg
インク: DIC 2180+プロセスK

大人気webサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」(以下ほぼ日)の中で、毎日更新されている主宰・糸井重里氏のコラム「今日のダーリン」や、それ以外の連載の中で出た印象的な言葉を抜き出してまとめた本です。一年に一冊というペースで製作されており「ともだちがやってきた」は2008年1月から12月末までの発言をまとめたものとなっています。(公式紹介ページ

◎本の特徴
最大の特徴は「書店で発売しない」ということです。ほぼ日のwebサイトからしか購入できません(追記:現在はLoftでも販売)。値段は1470円+送料630円で計2100円。送料込みだと安い本ではないですが、公式ウェブサイトで「この本の価値」というものを非常に丁寧に説明しているせいか、あるいはエコバックやTシャツ、タオルなどと一緒に売られているせいか、僕自身は特に抵抗なく購入できました。

この「商品の価値(メイキングやストーリー)を丁寧に説明する」という売り方は、ネット販売やテレビの通販でもよく使われる手法ですが、ほぼ日の場合、売られる全ての商品が「実際に使ってみて良かった」「自分で欲しいから作った」というものばかりなので、説明そのものの説得力が非常に強く、効果的なのです。

また、このシリーズにはハガキ大の用紙が一枚入っており、そこには「あらかじめ、知っていただきたいこと」として、装丁についての注意点(PPをかけないタントセレクトはカスレやヒビ割れが出やすいこと、ページの角丸は手作業なので個体差があること、 四方小口印刷は内側に滲みが出ること等)が書かれています。本を普通に買っている人間だったらほとんどクレームにはならない様な点まで説明することは、本のことをまったく知らない人にもこのままの形で読んで欲しいという、ほぼ日の方向性から生まれた方法だと思います(ただ広く読まれたいのであれば、文庫の様な強い造本にすればいい。しかしツルツルのコート紙にPP(ビニールコーティング)をかけたカバーではどうしても「ある種の本の佇まい」は表現できません)

◎装丁の特徴

書店で販売しないので、流通や書店販売時に必要なバーコード、ISBN、出版社の社名を入れる必要も無いし、他の本より目立たせる必要もなし。デザイナーにとっては非常に自由度の高く、イメージをそのまま形にできる仕事だと思いますが、そこでデザイナーの清水氏がしたデザインは「タイトルは非常に控えめ、全体としては非常にオーソドックス、 紙や加工については非常に贅沢、若干華奢で経年変化や汚れも受けやすい」というもの。この造本にから制作関係者の意図を考えると「これは丁寧に作られた大切な物である」ということを伝えたかったのでは無いでしょうか。

◎もし自分がこの本を装幀をするとしたら?

カバーからタイトルも著者名も社名も全部取り、年号(2008・1-12)だけ箔で入れます。カバーのビジュアルだけ毎年変わってゆく本を一年に一冊自分の本棚に並べてゆくという体験は、いまほとんどできない事なので、豊かで楽しいものになるでしょうし、本棚も美しくなるでしょう。

◎おわりに

情報としての本は今後電子化してゆくのは間違いないので、いままで流通やコストの都合で避けられてきた本の物としての個性(形・重さ・美しさ・可愛さ・大きさなど)が、本の価値になってゆかざるを得ない分岐点がいつか来ると思います。さらに、この「ともだちがやって来た」の様に、装丁だけではなく売り方まで変えてゆくようなやり方は、いま出版の世界でおおきな話題になっている電子書籍とは別の形でのブレイクスルーとなる可能性があるのではないかと思い、あえて今回取り上げてみました。

いま本について検索してみれば、いくらでもネガティブな情報が手に入るような状況ですが、だからこそ電子書籍やwebとの共存に活路を見出そうとしている人や、いまだからこそ自分が本当に価値があると思う本だけを出版する人が現れたり、休刊した「デザインの現場」とバトンタッチをするような形で現れた、紙やインク・印刷への強いこだわりを持つ雑誌「デザインのひきだし」や、コンテンツとデザインが非常に高いレベルで、しかもわかりやすく成立し継続している「よりみちパン!セ」など、出版やデザインを取り巻く動きそのものは、流動的であるからこそむしろ活発になっているとも言えるかも知れません。しかし、まだまだ本に元気がありません。

新しい読者に出会うためにも、本というメディアを更新して行くくらいの気概が出版社には必要だし、自分もデザインという手段で本を更新してゆかなくてはなりません。それは決して楽な事ではないですが、ゼロから始める体力、アイデアとそれを実行する情熱、そして最後まで続ける粘り強さがあれば、特に大きな予算の無い一冊の本からでも世の中を変えることは可能なのではないでしょうか。

その実例として、とても勇気づけられる動画を見つけましたので最後にご紹介します(音が大きいのでご注意ください)
ジャチェック・ウツコは問う「デザインは新聞を救えるか?」